ディレクターより
Director

世界に発信していける
キーワードとして考えたのが
数寄ということば

上野は、国立博物館もあれば寛永寺もあり、動物園やアメ横もある、聖も俗も、高尚さも猥雑さも入り乱れた雑多さが特色の街で、オフィス街の丸の内や、若い世代の情報発信地の渋谷や、サブカルの秋葉原といった個性がはっきりした街とはやや違う傾向をもつ街です。上野公園一帯の文化施設が“上野「文化の杜」”として連携して事業を行うことで、上野という街に象徴的に顕れるアジア的なダイバーシティを日本の文化的価値と捉え直し、世界に発信していけるのではないか。そのキーワードとして考えたのが「数寄」ということばです。

岡倉天心は『茶の本』で茶室に貫く美学を「数寄屋」ということばのもつ多様な意味で解説しています。それは今読むと非常に現代の芸術とも深くつながっていることがよくわかります。過去の様式にとらわれないことはモダニズムですし、ありふれたものに価値を見出す姿勢は現代アートに通じますし、故意に作品を仕上げず完成は体験者のイマジネーションにゆだねるというのはまさにインタクラションアートです。茶室は茶を振る舞い空間です。その振る舞いの空間は、人の振る舞いや所作に意識を集中させ、環境の変化に対して五感を研ぎ澄ませるための装置でもありました。身体性と空間との関係という意味でも現代芸術に通底しています。また、数寄は数奇とも書きます。つまり奇数、半分に割れない非対称の美を重視する美意識でもあります。

ですから「数寄」ってどんな意味?と聞かれても、一言では答えられません。しかし、その曖昧で多様な意味にこそ、日本が育んできた文化的価値がぎっしりと詰め込まれているのです。

「TOKYO数寄フェス」は上野が日本文化の発信拠点として世界的に認知されることをめざす上野「文化の杜」の事業のひとつです。このプログラムを契機に「数寄」ということばが「おもてなし」や「わびさび」くらいメジャーなことばになってほしいと願っています。

藤崎 圭一郎 / 東京藝術大学デザイン科教授