1876(明治9)年5月に日本初の公園として上野恩賜公園が開園して以来、博物館、美術館、芸術大学、動物園、音楽ホールなど多くの重要な文化施設が一つの公園一帯に集まり、世界でも類を見ない文化芸術拠点が集中するエリアとして発展してきた上野。この地に関わりのある機関・団体が相互に協力し、「上野文化の杜」という連携組織を作り、日本文化と芸術を国内外へ発信する様々なプロジェクトを展開しています。
その活動の一環として、昨年10月『TOKYO数寄フェス』を上野で3日間にわたって開催しました。近代日本美術の発展に大きな功績を残した岡倉天心が茶の湯の文化を通して日本の文化芸術の精神を紹介した『茶の本』の思想を背景とし、上野恩賜公園敷地内に広がる様々な文化施設を舞台に、天心が同書で語った《数寄》という言葉を軸にアート作品やワークショップ、コンサートを展開。日本や東京を「数寄(=好き)」になるコンテンツを、32万人が体感しました。
※ 平成29年度 文化庁文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業
※ 平成29年度 台東区 上野「文化の杜」新構想事業
歴史の地層が積み重なり、ミュージアムや大学が集積しているこの地に刻まれた時間の垂直軸に、横から揺さぶりをかけている者たちがいる。それは展示室やアトリエを飛び出したアーティストたちである。この感性を形にする者は、AI万能時代を生き抜く能力を持ち、他の人たちが見ていないものを見ることができるだろう。彼らがおそらく世界でも稀なほど濃密な「公共空間」を切り裂く、作品の設置やプロジェクトの実施を今年もおこなう。今年は、昨年の3日間のイベントが10日間の作品設置になり、かつ上野公園を出て谷中地区で海外の若手アーティストや地域との協働をおこなう。それは、上野の文化ポテンシャルと新しい創造力が結びつく試みになるはずだ。
かつてグローバル化の荒波が押し寄せた日本から、独自の文化を発信した岡倉天心は茶の湯を取り上げた。その著作の中で、「真の美はただ『不完全』を心の中に完成する人によってのみ見いだされる。人生と芸術の力強いところはその発達の可能性に存し、この『不完全』を真摯に静観してこそ、東西相会して互いに慰めることができるであろう。」と茶の湯が持つ国際性を強く主張した。「数寄」という言葉に込められた創造性を今いちど噛みしめつつ、ポストオリンピックの文化発信を考える時期がそろそろ来ている。
住友文彦 / 東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授・アーツ前橋館長
住友 文彦 (すみとも ふみひこ)
1971年生まれ。あいちトリエンナーレ2013、メディア・シティ・ソウル2010(ソウル市美術館)の共同キュレーター。NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT)創立メンバー。展覧会=「PossibleFutures:アート&テクノロジー過去と未来」展(ICC、東京、2005)「川俣正[通路]」(東京都現代美術館、東京、2008)ヨコハマ国際映像祭2009ほか。
「数寄者(すきしゃ)」とは、室町時代には和歌や連歌を好む人をさしたが、安土桃山時代にわび茶が流行し、茶人をさす言葉になります。その後、茶室を「数寄屋(すきや)」と呼ぶようになり、「好家(すきや)」であり、「空家(すきや)」ともあてられます。
上野を中心に日本の文化芸術を世界に発信した岡倉天心は『茶の本』のなかで「茶室」を、人それぞれ好みの詩趣を宿す「好き家」、美的感情を満たすために置くものの他は、一切の装飾を施さない「空き家」、そして不完全を尊び故意に仕上げず、見る者の想像の働きでこれを完成させる「数奇屋」と解説しています。そこは富の誇示するような過剰な美はなく、簡素にして謙虚、静寂にして清潔、大名も庶民も分け隔てなく美を崇めることに集中できる仮の家であり、ありきたりの材料や均斉のとれていない配置に美を見出す自由な美意識が展開する場です。そして、人の「好き」は人それぞれであり、「数寄」は人の数だけ存在します。この『TOKYO数寄フェス』を通して、自由で広がりのある「数寄」という美意識を日本特有の伝統的な美意識として世界に広く伝えたいと考えています。
世界の文化交流の拠点として更なる飛躍を目指すために上野公園に集まる日本屈指の文化教育・学術機関が保有する文化芸術資源の潜在的魅力をより顕在化させ、パリやロンドンといった世界最高水準の海外主要都市に匹敵する独自性を持った「芸術文化発信拠点UENO」のシンボル化を目指すために結成された団体です。上野公園周辺の文化施設が連携することで可能となった共通入場券「UENO WELCOME PASSPORT」の発行、「TOKYO数寄フェス」などのイベントを開催し、各文化施設が連携して文化芸術発信力を高めております。芸術面のみならず上野界隈の情報データベース構想、通信インフラの整備・防災拠点化などソフトとハードの両面から魅力あるまちの基盤整備を行う活動を促進しています。上野というまちが歴史的に保ち続けてきた伝統と革新のアイデンティティーを再提示し、世界中のあらゆる人々が集う国際的な文化交流の拠点となるよう文化資源レガシーを日本・世界に向けて強力に発信していきます。
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文化施設・文教施設 : 東京国立博物館, 国立科学博物館, 国立西洋美術館, 東京都美術館, 東京文化会館, 恩賜上野動物園, 上野の森美術館, 東京藝術大学 / 行政 : 台東区 / 民間企業等 : 上野観光連盟, 東日本旅客鉄道株式会社 / オブザーバー : 文化庁, 東京都(2017/9/14現在)
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